私は医療系専門学校卒業及び国家資格取得の背景と、海外留学(大学卒業)の経験から医療知識と語学が活かせる仕事に就きたいと考え医療通訳を目指しました。
当初から派遣型での通訳支援でなく、医療機関での常駐通訳型で患者や医療従事者と継続的な関わりや関係構築、その上での通訳支援をやりたいと考えていました。
東京都の某総合病院に応募し面接に行ってみたところ、幸運にも採用していただきました。しかも!私は医療通訳研修すら受けていなかったので、ダメかと思いきや、合格でした。
当時担当されていた医療コーディネーターのご厚意により、入職前にいいタイミングで医療コーディネーター研修を、また入職後しばらくしてから医療通訳研修を受講させていただきました。つまり私は現場経験先行型の叩き上げ通訳者なのです。
私が入職した医療機関は地域の在住外国人比率が約12%と高く、また外国人受診者比率も高い医療機関でした。「外国人患者が来ない日がない」という病院で毎日が賑やかでした。私は、この病院で約7年間全診療科の通訳経験を積ませていただき、それ以外にも通訳コーディネーターや、医療通訳研修の講師としても従事しました。また、病院では対面通訳5言語に加え遠隔通訳も利用していたので、多言語の通訳者との日常的なコミュニケーションを通して多くを学ベる環境にいました。
医療機関常駐の医療通訳者は、医療コーディネーターや医療従事者との協業なくして仕事は成り立ちません。症状や紹介状、ビザや保険などの事前情報収集から始まり、必要時には各部署と連絡を取り、様々な情報を共有して起こり得るリスクなどを検討し患者にとってのベストを検討します。時には、自分が直接やりとりをしている患者について、通訳者としての見解を医療従事者に進言することもありました。
そうです。まさに「チーム医療」であり、常駐通訳者には通訳業務以上のことを求められることも多いのです。私の場合はコーディネーター機能も担っていたので、よりその傾向がありました。それがやりがいに繋がっていたともいえます。余談ですが私は「寄り添いアンド優しさ系」というよりも「バシバシ系」の通訳者です(笑)。
病院の中にいてわかったことですが、「国際化」されている病院とはいえ、院内での国際診療部の浸透度や通訳への理解には温度差がありました。通訳を入れることへの理解は患者と医療者でそれぞれ違うと感じました。地道な啓発・認知活動があってはじめて院内でさえも「普通」に通訳が使ってもらえるのだということを知りました。そこで私は「医療通訳は医療安全」をモットーに各種の啓発・認知活動を行っていました。
また、在住者以外にも旅行者、訪日治療患者の受け入れにも対応できるように通訳者は病院の決まり事やスキーム、保険制度、それぞれの確認事項や留意事項も把握しておく必要がありました。
ここで、以下私の病院での1日をご紹介します。
【午前】
・カルテチェック(事前予約患者の振り分け、前日の救急受診患者、入院患者、外来患者の確認)
・医療コーディネーターにハイリスク案件のサマリー報告と作戦会議
・院内から国際診療部にかかってくる通訳依頼や診療相談の電話対応・外線電話対応
・通訳対応
※カルテや紹介状を見られないときもあります。
【お昼頃】 休憩(でも、急な呼び出しは日常茶飯事!)
【午後】
・通訳対応
・電話対応
・翌日の予約状況確認、通訳振り分けやハイプライオリティ事項などの作戦会議
私の担当言語は常駐通訳者が3名いたので、業務を分担しながら通訳していましたが、それでも各人1日平均5~10件の対応はあったかと思います。また手術などの予定された通訳依頼のほかに、救急受診患者の対応などもあったため、3名の通訳者で柔軟にスケジュール調整をしながら通訳をしました。もちろん未収金やビザの問題や揉め事などのトラブル対応などにも入っていました。ちなみに私はトラブル対応時の通訳によく起用されていました(笑)。トラブルも含めて、毎回必ず同じ患者の通訳支援に入れるわけではないので、通訳者間でコミュニケーションを綿密にとり、注意点や留意事項を共有していました。国際診療部内でもチームとして活動しているイメージです。
各通訳者は、それぞれ空き時間に院内文書の翻訳なども行っていましたが、基本的には患者への対応が最優先でした。また、院内常駐通訳の特徴ともいえますが「こんな表現に困った」、「母国語ではこの言い方では伝わらない」、「こんな案件があった」などの話題を国際診療部内の各言語通訳者、医療コーディネーター、医師の間で話すことができ、訳出表現の勉強になっただけでなく、各国の医療文化の違いも学ぶことができました。また、内容が重い案件を担当した時は、近くに話せる相手がいることはメンタルコントロールにもなりました。
通訳コーディネーターとしての業務として、感染症対策が必要な患者のリマインドや、1言語に1名しか担当できる通訳者がいないときは、通訳者に次の患者の情報をクイックに共有をしたり、休憩時間確保の配慮をしたり、遠隔通訳利用であればサマリーを伝えてから介入いただくなどコーディネーターとして少しでも通訳者が円滑に業務できるようサポートも行っていました。
私の職場は三次救急医療機関であるだけでなく感染症指定医療機関、がん診療連携拠点病院等の指定医療機関でもあったので、本当に沢山の経験を積ませていただきました。私は恵まれた環境にいたと思います。
長くなりました。今回は概要って感じになりましたが、まだまだ話し足りないので、次回のブログでは症例や印象に残った案件とかを共有できたらなと思います。
次はいつかまだ未定ですが、また次回をお楽しみに~!
M. A.
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