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「映画で学ぶ医療の場面」

 医療通訳を行うにあたって、多くの医療の現場を経験することがとても大切です。でも、実際には自分や家族が受診するとき以外は、本人が医療者でない限りは難しいです。そのため、私たち医療通訳者はさまざまな動画などを活用しで間接的に現場体験をしながら日々研鑽しています。

 いろいろな映画に医療に関わる場面が出てきます。映画を活用することで、映画を見る楽しみもありますし、医療に関して知ることもできます。私はいくつかの大学で非常勤講師として医療に関する英語を担当していますが、授業の中に映画を組み込むことは学生にも評判がいいです。ここでは3つの映画をご紹介します。私は英語の通訳者なので全て英語の映画ですが、他の言語の方も現場の雰囲気を味わっていただけることと思います。

 最初の作品は『恋愛だけじゃダメかしら?』(What to Expect When You're Expecting,2012)です。これは『What to Expect When You're Expecting』というアメリカの妊娠How to本を元に作られています。4人の女性の妊娠と出産を巡って話が同時進行していきます。高齢出産、望まない妊娠、不妊治療、割礼をどう考えるか、0~10までのスケールを使った痛みの表現などを楽しみながら見ることができます。

 次の作品は『17歳の瞳に映る世界』(Never Rarely Sometimes Always、2020)です。17歳の女子高生が望まない妊娠をしてしまい、自分が住んでいる地域では親の同意がないと人工妊娠中絶できないため、支えてくれるいとこと一緒にニューヨークへ行って処置を受ける、というストーリーです。処置に必要な表現は流産や誘発分娩の場面でも使われることがあります。また、この英語のタイトルは、医療者からの質問に対して患者がこのいずれかのことばで答えることを示しています。辛いことについて尋ねるときに、患者が自ら詳しく説明をするとその記憶を呼び起こしてしまい、さらに辛い思いをさせてしまうかもしれません。この選択式の回答は、医療面接や問診票でもよく出てきます。

 最後の作品は『スーパーサイズ・ミー』(Super Size Me、2004)です。これは他の2作品とは異なり、ドキュメンタリーです。1か月間、マクドナルドの商品のみを食べ続けるとどうなるか、と監督・脚本も務めている主人公が自ら身体を張って実験を行います。この実験の中で何度も病院のシーンが出てきます。健康な状態で健康診断を受けるところや、さまざまな症状が出て受診するなど、実際のアメリカの病院の様子がよくわかります。また、単語を並べるだけで問診を進めていくシーンもあり、全てを完璧に英作文をしなくても問題なく通じることがよくわかります。

 他にも医療を扱った映画や、恋愛映画の中に医療に関するシーンが出てくるものなど様々な映画があります。皆さんもご存じのものがありましたらぜひ教えてください。(SK)